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中小企業における「人的資本経営」はここに注力する!

巷で語られている人的資本経営のあり方・進め方は、基本的に上場企業、もしくは上場を目指している企業に向けたものです。
われわれ中小企業が同じように進めようとすると、膨大なコストがかかります。更に言えば、本質的な目的から考えれば、中小企業にとってはあまり意味がないことも多々あります。
本頁では、中小企業で人的資本経営を進めるにおける6つのポイントを記します。

1「経営計画」と「人材・組織戦略」の連動

「経営計画」と「人材・組織戦略」の連動

中期経営計画を始めとした経営計画は、通常、誰に、何をもって、どのように販売促進を行うのか?という戦略方針や業績目標に紙面が割かれているケースが大半です。

しかしながら、戦略を推進し、業績を上げていくのは「社員」であり、「組織」です。
戦略推進に必要なスキル開発をはかるために、職種・職位別などで計画的・継続的に人材育成を行う。
長期視点で中核人材となり得る新卒社員だけでなく、育成では賄えず、不足が予想される職能を有した人材の中途採用も行う。

また、主体的・自発的に会社に貢献したいという“想い”(エンゲージメント)を高めていき、社員が有している潜在能力を発揮してもらう。
優秀な人材の定着化を図り、モチベーション高く仕事を進めてもらうための公平な評価・賃金制度を整備する。
こうした「人材・組織開発戦略」を経営計画策定の中で時間を割いて対話し、環境変化対応・戦略推進を“絵に描いた餅”にしないように的確に定めることが重要です。

2あるべき姿ー現状ー課題の具体化

<具体化例> あるべき姿ー現状ー課題の具体化例
テーマ5年後 To be(あるべき姿)As is(現状)「人事・組織開発」課題
次世代
経営陣
新規ボードメンバー(役員)3名着任
・「技術開発部門」統括役員
・「管理部門」統括役員
・「新規事業」統括役員
◎各統括役員の役割詳細は役員「役割基準書」参照
直下職位として部長職4名
 (61歳・58歳・52歳・48歳)。

⇒現実的には若年者2名のみが候補人材。
部長職以外の候補メンバーとして、現役員が候補者としてピックアップした人材
⇒5名
◎キャリア・人事評価点数は別途参照
候補者7名の育成計画策定~推進
⇒計画策定は共通フォーマットに沿って、担当役員が策定。
策定後、全役員で共有化。
上記以外の候補者発掘
⇒グループ会社を含めた現課長クラス人材のアセスメント実施。
⇒ミドルマネージャーの中途採用。
候補対象者不在ポスト対策
⇒「管理部門」統括役員にはDX知見が求めれるものの、社内に現状、適任者がいない状況。社内育成・外部調達の両面で早期活動開始。


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5W3H計画化~PDCA推進

上記、サンプル例のように、環境適応・戦略推進を果たしていくための人材・組織体制をテーマ毎に明確化(あるべき姿:To be)。
併せて、現状(As is)も可能な限り数値化をはかり、ギャップ確認~取り組むべき課題を具体化することが人的資本経営を進めていく肝となります。

基本的に、人は為さねばならないことを抽象的なレベルで認識していると、目の前の事柄に忙殺されてどんどん先送りしていきます。
「重要ではあるものの、緊急ではない」ことほど具体化することが肝要です。
人事・組織開発課題は、この対象の最たるものといえます。5W3Hの観点で実施事項を落とし込み、着実にPDCAサイクルを回していくことが必要です。

3全社的な優先順位の向上

物事の結果が出るか、出ないかは、基本的にかける時間と意欲に比例します。
では、社員が意欲高く、時間をかけて「人材・組織開発戦略」をそれぞれの立場で進めていくためには何がいるのでしょうか。

もちろん様々な要素がありますが、重要な要素は二点に集約されると思います。

一つが、やはり社長を始めとした経営陣のコミット(決意)です。経営陣の本気が、社員の本気を引き出します。

そしてもう一つが、「意味付け」です。
人は他の動物と違って意味を求める動物です。意味が感じられなければ、その事柄を進めるスキルや時間があったとしても人は動きません。
逆に、その事柄を行う意味が充分に認識できていれば、困難があったとしてもそれを乗り越える努力を続けていきます。
人のモチベーションの中核は「意味付け」にあります。
「人材・組織開発戦略」の意味を多くの社員が認識することが、推進力の向上につながります。

この二つの要素を同時に進めるのが経営陣と社員の対話会です。私共では「インテグレーション・ワーク」と称しています。
数年後の、自社を取り巻く顧客・競合・技術動向などの環境変化予測。その中で適応していくための経営戦略。そして、経営戦略を具現化し、企業体質・社員個人の存在価値を強化する人材・組織開発戦略。これらの内容を経営陣が社員に伝え、対話していくものです。
※通常は経営陣が分担して何チームかに分けて実施します。

どんなに丁寧に説明しても、戦略方針は一方通行で伝達するだけでは理解・浸透は十分に図れません。
その方針の詳細や意味合いの理解を促すには、質問-回答を繰り返す双方向コミュニケーションを図ることが求められます。

また、社員から効果的な推進に関する建設的アイデアを提示してもらい、その場で深堀りすることで効果的な施策が導き出せます。
そして、こうした取り組みを通じて、人間のモチベーション要素の一つである「参画感」が社員に生じます。自分たちがその場で考え、対話した意見が会社の戦略方針に採用されたという想いが、人材・組織開発戦略を推進するにあたっての当事者意識を引き出します

4PDCAが回る仕組みづくり

全社的な「人的資本経営」推進の気運を高めると共に、具体的にPDCAを回す(スパイラルアップ)仕組みをつくる必要があります。

この仕組みについては、さまざまな要素があり、各社の状況、人材・組織開発戦略の内容によっても変わります。
よって、パッケージングされたものはありませんが、以下の三点は、多くの企業において実施することが求められるのではないかと考えています。

人事評価制度との連動

<人事評価項目サンプル例> 人事評価項目サンプル例
 評価項目項目定義評価基準
先行管理力将来的に求められていく課題を踏まえ、自ら為すべき事を見出し、自己革新を図る将来的に自己に求められていく課題認識が抽象的で、行動もとれていない。将来的に自己に求められていく課題認識はできているものの、活動レベルが物足りない。将来的に求められていく課題認識はできており、活動レベルも質・量ともに評価できるレベル。将来課題を的確に捉えており、周囲も巻き込みながら活動し、成果も上げている。将来課題を的確に捉えており、周囲も巻き込みながら、活動し、目覚ましい成果を上げている。
部下育成中期的な育成目標に沿って適切な課題設定を行い、部下の状況(力量・特性・心理など)を鑑みた指導を実践し、成長・成果創出を促す力量が高い。育成目標に沿った課題設定が適切に行えておらず、指導も不十分。育成目標に沿った課題設定はある程度できていたが、指導の質もしくは量が不十分。部下との信頼関係が築けており、部下の状況(力量・特性・心理など)に応じた的確なアプローチができている。部下の状況に応じた的確なアプローチを行い、部下の成長・成果創出に貢献する技量が高い。さまざまなタイプの部下に対して的確なアプローチが行え、部下が自律的に成長・進化を図る状況を創出できる。
クリティカル・シンキング実践社内常識・業界慣習など固定観念化している事項に対して、良い意味で疑問を持ち、より効果的・効果的な方法を導き出す姿勢・力が優れている既存の思考・枠組みに囚われた業務推進状況で進化が果たされていない。既存の思考・枠組みに囚われていることが多く、改善・革新発想・言動が不十分。自身、及び周辺事項に関して、クリティカルな発想でさまざまな取り組みが行えている。クリティカル発想でさまざまな活動を行い、自他共に認める変革成果を上げている。全社課題・他部門横断型課題に関して、クリティカル発想で変革案を提示し、成果を上げる技量がある。


人は、承認・評価を求める動物でもあります。多くの人の場合、評価されることには力を注ぎますが、評価されないことには力が入りません。“あるべき論”だけで人は動きません。

人材・組織開発戦略からブレイクダウンして導き出した、前述の②あるべき姿-現状-課題の具体化内容には、職位・職種別などで磨くべきスキル・マインドセット(過去の経験から培われたものの見方・考え方)が記載されています。
その内容を、既存の人事評価シートに織り込んで、社員に意識をさせ行動を促していくことが一つは求められます。

1on1ミーティング(個別面談)指導

1on1ミーティング(個別面談)指導

上司と部下が月1回など定期的に、部下の課題解決や成長に関して対話をはかる1on1ミーティング(個別面談)。
こうした機会を設定し、社員一人ひとりの単位でPDCAサイクルを回し、将来を見据えたスキル開発、マインドセット進化を促していくことが肝要です。

但し、号令一下、管理職クラスに対して一斉に1on1ミーティングを実施するように伝え、実践させることは無理があります。
まずは、管理職クラスに1on1ミーティングの意義や目的を丁寧に伝え、効果的な進め方の指導を行うことが必要です。
こうしたコミュニケーション・指導がなければ、現場では形骸化していきます。

また、全社一斉に始めるよりも、事業規模にもよりますがスモールスタートしていくことをお勧めします。
まずは、一部署、一部門など小さな単位で行い、その実践の中で観えてくる課題の対策を講じながら精度を上げていく。そして、然る後に全社的に展開をしてくことが好ましいでしょう。

人材育成会議の開催

全社単位であれば経営陣が、次代の経営陣候補者の育成について検討する。部門単位であれば、管理職が集まり、次代の管理職候補や高度専門人材の育成について検討する機会を定期的にもつ「人材育成会議」。

全社、部門などの各マネジメント単位において、人材の個別状況を共有し、育成に効果的な環境設定(職務内容追加、部署異動、Off・J・T〈外部教育〉機会の提供など)や指導内容についての意見交換を図ることも、人材・組織開発の推進力が高まります。

5エンゲージメント強化に注力

エンゲージメント強化に注力

エンゲージ―メントは、愛着心・帰属意識と解釈されることが多いですが、より具体的に言えば、「会社の理念・ビジョン・方針に共感し、自発的に貢献しようとする想い」と表現できます。

当然、エンゲージメントの高い社員が多ければ多いほど、経営方針・戦略の推進力は高まり、環境変化への適応、継続的な業績成果を上げることができます。

また、エンゲージメントの高さと定着は比例します。損益計算書には直接的に現れないものの企業運営コストとして大きい離職防止につながります。

“朱に交われば赤くなる”という「ことわざ」があります。人は関わる相手や環境によって、良くも悪くもなるということを述べているものです。
この「ことわざ」がエンゲージメントにも当てはまります。
新入社員が、エンゲージメントの高い職場に配属されるとプラスの影響を受けて、本人のエンゲージメントが高まりやすくなります。
逆に、エンゲージメントの低い職場に入れば、本人が価値観・哲学をしっかり有していれば別ですが、悪影響を受けて、先輩同様にエンゲージメントが低下していく傾向にあります。
若年層を中心とした人材教育の面においても、組織のエンゲージメント状態が大きく影響を及ぼします。

このエンゲージメントは各種のサーベイ(アンケート調査)で測定することができます。
全社・職位・職種などのさまざまな属性ごとに、エンゲージメントに影響を及ぼす複数要素の優劣が数値化されて現されます。
こうしたサーベイを実施して、自社組織の状況を把握し、必要なエンゲージメント強化施策を打つこともよいでしょう。

6「人的資本経営」情報開示の考え方

上場企業、もしくは上場を考えている企業は、政府方針に沿って、内閣官房の「人的資本可視化指針」、経済産業省主管の「人材版伊藤レポート2.0」、国際指標である「ISO30414」などに準拠した人的資本に関する情報を開示していくことになります。

この中の「ISO30414」を例にとると、11領域49項目の情報開示が求められます。
49項目は簡単に集計して情報開示できるものもありますが、多くは情報を取りまとめるのにかなりの時間・費用が生じます。
また、われわれ中小企業においては、そもそも取りまとめることが困難なものもあり、開示が適切とは思えない要素もあります。

そういう意味でわれわれ中小企業においては、あまりISOなどの基準に縛られることなく、本質的な目的に沿った開示を心掛ければよいでしょう。

「終身雇用」から「終身成長」の時代に入ったといわれます。
優秀なビジネスパーソン、その素養ある学生は、この点の意識が高い人達です。
こうした成長意識の高い入社検討者・希望者には、「人が成長し、活躍できる仕組みづくり」に注力していることが伝わる情報を開示する。

また、家庭における制約への配慮、職場の人間関係などに不安を有している入社検討者・希望者には、その点の安心感を付与できる定量的(数値)・定性的(事例)な情報を提示すればよいでしょう。

顧客、協力会社などのビジネスパートナー、金融機関などの主要ステークホルダーには、取引を継続するにあたり、中長期視点で人材育成・組織開発を行っていることを認知・評価される情報を提供する。

こうした目的を明確にして、少しずつできる範囲で情報を取りまとめて、順次開示することがわれわれにおいては良いのではないかと考えます。

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