【第1回】当たり前のように「自己変革」を続ける組織
2022年11月21日
もくじ
規模・業種を問わず日本企業に求められる能力
経済産業省、厚生労働省、文部科学省の三省が共同で作成・発表している「ものづくり白書」。
2020年度版の冒頭で
ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革能力) |
を磨く重要性を訴え、この理論がわが国でも注目されました。
これはカリフォルニア大学のビジネススクール教授であるD・J・ティース氏が提唱しているものです。
企業には大別すると二つの能力が必要である。
一つは通常能力と訳されるオーディナリー・ケイパビリティ。「ものごとを正しく行う能力」といえ、与えられた資源を効率的に運用して利益を最大化する力です。
ベストプラクティス(ある結果を得るのに最も効率のよい技法・活動などを指し、最善慣行とも称される)を見出し、洗練させていくことともいえます。
各々の事業体において、このオーディナリー・ケイパビリティを磨くことが基本ではありますが、当然、企業・事業を取り巻く環境は変化していきます。
この力を突き詰めるだけでは、顧客ニーズ・技術基盤が変わり、商品・ビジネスモデルが陳腐化していけば対応できません。
そこで二つ目の能力として、環境変化に応じて企業内外の経営資源を再構成して、事業・商品などを自己変革させていくダイナミック・ケイパビリティを高めることが必要となる、というものです。
一言集約して「正しいことを行う能力」ともいわれます。
ダイナミック・ケイパビリティを発揮している企業事例
有名な企業事例では、富士フイルムが挙げられます。
社名のとおり、富士フイルムはカラーフイルムなどの写真感光材料がピーク時で売上の60%、利益の3分の2を占めていました。
フイルム市場のピークは2000年だったそうですが、富士フイルムはその年に業界の巨人であったコダックを抜き世界トップシェアを実現しています。
ただ、ここからデジタル化の波を受けて10年後の2010年のフイルム市場はピークの10分の1、2014年にはなんとピークの100分の1にまで市場が縮小します。
この間、最盛期に15万人を雇用していた巨人コダックは2012年に倒産します。
こうした激変のなか富士フイルムは、フイルム事業で培った基礎技術をベースにさまざまな分野に挑戦していきます。
写真の経年劣化(色褪せ)を防ぐ抗酸化技術を基に、アンチエイジングの化粧品を開発し、事業展開を進めます。中島みゆきさんや松田聖子さんをCMキャラクターに起用して話題となりました。
コロナ禍で一躍有名になったアビガンを創薬した富山化学工業を皮切りに、さまざまな企業に投資して医薬品分野に進出します。アルツハイマーやがん治療の取り組みも今では行われています。
そして近年では、損傷を受けた生体機能を修復させる再生医療事業に進出して、ips細胞などの細胞培養分野に注力しています。
富士フイルムの事業セグメントは大きく四つに分けられています。
写真や光学系の「イメージング事業」。プリンターや複写機などの「ビジネスイノベーション事業」。
電子材料やディスプレイ材料などの「マテリアルズ事業」。そして化粧品や医療・医薬分野などの「ヘルスケア事業」です。
2022年3月期の決算では、過去最高の営業利益を計上し、近年、事業拡大をはかってきた「ヘルスケア事業」の営業利益が40%近くを占めるに至っています。
ダイナミック・ケイパビリティを強化するために
私は、このダイナミック・ケイパビリティを本コラムの表題のように、
「環境変化を先読みして、自律的・継続的に自己変革を“当たり前のように”行いつづける能力」 |
と捉えています。
そして、このダイナミック・ケイパビリティはかみ砕くと、三つの能力に分類されます。
- 感知(センシング)
将来の脅威・危機を感知する能力 - 捕捉(シージング)
将来の機会・チャンスを捉える能力 - 変容(トランスフォーミング)
脅威・機会に対応すべく、自社の資産・技術・風土を進化・発展させて競争力を獲得する能力
では、何をすることがわれわれ中小企業において、ダイナミック・ケイパビリティ向上につながるのか?
おわかりの通り、本コラムのテーマである「人的資本経営」を推し進めることです。
次回以降のコラムでは、様々な角度から中小企業において「人的資本経営」を効果的に進め、自己変革力を高めていくポイントを述べていきます。