【第7回】「異」が中小企業の人的資本を高める
2023年05月08日
もくじ
AIが書いたAIの本
人生・仕事を充実させるための有効な習慣が記されている「7つの習慣」。
世界で3,000万部以上、日本でも220万部以上売れているベストセラー書籍です。
その日本版の訳者で、テレビコメンテーター、投資家、経営者として活躍しているジェームズ・スキナー氏が、『AIが書いたAIについての本』(フローラル出版)を監修者として出版しています。
言葉の通り、著者はAIです。しかもカバーデザインから挿入されているイラスト・写真まで全てAI作です。
よって人件費が大幅に削減されているので380頁以上の書籍ですが、価格は何と890円です。
しかも、作成時間はたったの5日間。それも監修者のジェームズ・スキナー氏が多忙であった影響だそうで、本来はもっと早くに完成していたそうです。
私も書籍を書いてきていますが、10頁書くのに5日かかる場合もあります。人間では無理な話です。今も書いていてタメ息が出ます(笑)。
もちろん内容は、それこそ機械的で読み辛い部分も多かったのですが、近い将来、書籍もAIライターが多くを占めていくことになりそうです。
さまざまな分野でAIが身近なものとなり、われわれが行っていることを効率的・効果的に代行していくことでしょう。
AIが苦手な創造性とは
最近、ある企業の研修中に管理職の方から、このような話を聞きました。
「入社間もない若手社員の何名かと話をしていると、自分の成長の方向性が見出せないと言うのです。」
「具体的に、どういう事なのか?聞いていくと、今の若者ならではの悩みでした。」
「いくら時間・労力をかけてスキルを磨いたとしても、多くの事がAIに代替されていきそうで、一体、中長期的に何を磨けば良いのか?全く見えないというのです。」
確かに、昨今の報道や未知なものは過大評価する人間心理から、そのような想いになるのはわかります。
ただ、AIは過去のデータを基にアウトプットするものです。
データがなければアウトプットはできませんし、データが少なくても機能しません。
よってクリエイティブな作業や新しいアイデアを生み出すのは苦手です。
やはり、この点はまだまだ人間が行うものであり、ここにビジネスパーソンとしての存在価値があり、コラムテーマの組織の人的資本充実の大きな要素ともなります。
イノベーションの法則
イノベーションという概念は、今や当たり前の話ですが、この概念を生み出したのは現在のチェコ出身の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターです。
具体的には、「既存のもの同士の思ってもみない組み合わせ(新結合)が、新たな価値を生み出す。この新結合が多く行われることにより経済は発展していく。」という理論を提示しました。
この考え方を後にイノベーションと呼ぶようになったわけですが、ポイントは
既知 × 既知 = 新たな価値
という公式です。
実際に既存のものの組み合わせが新たなものを生んでいます。
例えば、今や世界で年間1,000億食以上販売されているインスタントラーメン。
これは麺×乾燥技術です。
少し前に流行したポケモンGOは、ゲーム×位置情報サービスです。
低価格でミシュラン店舗で働いていたシェフの料理が食べられる飲食店、俺のイタリアン・俺のフレンチ。これは、高級料理×立ち飲み店舗の組み合わせからブックオフの創業者の坂本孝さんが生み出したものです。
表現を変えると既存のものに「異なる」ものを取り入れたことにより、新たな競争力あるものが生み出されたということになります。
この点が、われわれ中小企業の人材力、ひいては人的資本を高める一つのポイントではないかと考えています。
中小企業の場合は、多くの企業において人も資金も余裕がありません。
よって、目の前の実務を回すことで一杯いっぱいになり、時間的余裕を社員に提供することが出来にくくなります。
その結果、外に出て新しい知識・情報に触れることが少なくなります。
人間関係も対外的だけでなく、他部門・他部署とのコミュニケーションも不十分になり
広がりません。
こうした刺激のない状況が続くことにより、固定観念化した思考で仕事を続けていくことになり、生産性が向上しない。
さらに言えば企業の競争力を落としていきます。
昨今、リスキリングが叫ばれ、デジタル・リテラシーの向上が求められていますが、中小企業の人材育成・人的資本向上においては、「異」に多く触れる機会を意図的につくることも重要ではないかと思います。
異分野から学ぶ。異業界の展示会に参加してみる。異なる部署・職種の人々とのコミュニケーションを増やす。
こうした機会が増える仕掛けを図り、発想力やアイデア創造力を磨かせることが組織にとっても個人にとっても、これから求められます。