人的資本経営とは?そのポイントをわかりやすく解説
2022年11月21日
持続的な企業価値を高める経営スタイルとして、近年注目が集まっている「人的資本経営」。
この記事では、人的資本経営が重視される背景や取り組みのポイントについてわかりやすく解説します。
もくじ
人的資本経営とは?
「会社の未来を保証するものは何でしょうか」
資金、設備、商品、特許といった貸借対照表に記載されている資産。
収益を生み出すための競争力あるビジネスモデル。
時間をかけて培ってきた顧客からの信頼。
どれも経営を行うにあたっては必要なものです。欠かせません。
ただ、本質的に考えれば、資産・ビジネスモデルを適切に運用し、より強固なものにしていくのも、顧客からの信頼をさらに高めていくのも「人」です。「社員」です。
人的資本経営とは、事業運営の根幹を為す人材を「資本」と捉え、個々が持つ能力や経験に投資し、その価値を最大限に引き出していく経営手法をいいます。
人材に投じる資金を「コスト」とみなすのではなく、価値創造のための「投資」と位置づけていることがポイントです。
VUCAワールドと称される外部環境の変化が激しい時代に、持続的に企業価値を高めていくには必須の手法です。
具体的には、環境変化に対応するための「経営戦略」を推進するための「人材戦略」を策定し、計画的・継続的に人材育成・組織開発を図ることを指します。
そして、その取り組み内容をステークホルダー(顧客・ビジネスパートナー・株主・金融機関・入社希望者・社員など)に開示し、さらなる信頼獲得・関係性強化を目指します。
人的資本経営の推進ポイント
人的資本経営に取り組むうえで参考になるのが、経済産業省が公表している「人材版伊藤レポート」です。人的資本経営の重要性が増す中で、企業はどう具現化し実践に移していけばよいのか、そのアイデアが具体的にまとめられています。
同レポートでは人的資本経営における人材戦略に求められるものとして、「3つの視点(Perspectives)」と「5つの共通要素(Common Factors)」を挙げています。
出典:経済産業省『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~』
3つの視点
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人的資本経営のポイントは、自社の経営戦略と連動させた人材戦略を策定・実践することです。そして、現在の姿(As is)と目指すべき姿(To be)の間にあるギャップを定量的に把握し、軌道修正の要否や見直し、さらなる打ち手を検討していきます。また、人的資本経営を推進するには、経営戦略の実現につながる社員の行動や姿勢を「企業文化」として定着させることも重要です。
5つの共通要素
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人材戦略の具体的な内容である5つの共通要素。
まずは経営戦略の実現に貢献できる人材ポートフォリオを作成すること、そして個人と組織の活性化に向けた具体的な取り組みとして「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「リスキル・学び直し」「従業員エンゲージメント」を推進していくが挙げられています。
また、個々の価値観や働き方がますます多様化する中で、企業としては時間や場所にとらわれずに働ける環境の整備も欠かせません。
日本における開示状況
人的資本に関する情報開示を巡っては、2018年12月にISO(国際標準化機構)が人的資本情報開示のガイドライン「ISO30414」を公開、2020年8月にはSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に対し人的資本の情報開示を義務化しました。
日本は欧米の後を追う形で、2020年9月に経済産業省が「人材版伊藤レポート」を公表し、2021年6月には「改訂版コーポレートガバナンス・コード」にて上場企業に対する人的資本の情報開示を求めました。
2022年においては、政府が上場企業に対して以下項目の情報開示を求めていく方針を打ち出しています。
出典:「2022年6月18日」日本経済新聞電子版
現時点において、開示義務は上場企業が対象です。
しかしながら、生産年齢人口の著しい減少期に入ります。自社が人材の成長支援、活躍できる環境を整備していることをPRする必要性は中小企業でも高まります。
また、顧客・ビジネスパートナー・金融機関などのステークホルダーにおいても、企業競争力の根幹を為す人的資本状態を取引の判断基準としていくことでしょう。
中小企業においても、自発的にさまざまな工夫を行い、人的資本経営に関する情報を公開することが求められます。
まとめ
人的資本経営とは、従業員を「資本」とみなして投資を行い、個々が有する能力を最大限に引き出していく経営のあり方です。
外部環境が激しく変化する現代において、持続的な企業価値を高めるために欠かせない経営スタイルとして世界中で注目されています。
先行きが不透明な時代でもステークホルダーから評価される企業を目指し、人的資本経営への変革を進めていきましょう。