従業員エンゲージメントが人的資本経営を高める原動力
2022年11月21日
人材を資本として捉え、人材の能力・知識などを高めることで、企業価値を向上させるのが人的資本経営です。企業によっては人材を「人財」と表記するなど、個人の教育や育成に対する積極的な投資が見られるケースが増えています。
人的資本経営においては、「従業員エンゲージメント」を高めることが重要とされています。SONYやスターバックスといった有名企業も、従業員エンゲージメントの向上について積極的に取り組んできました。
当記事では人的資本経営を高める原動力となる、従業員エンゲージメントについて解説します。
もくじ
従業員エンゲージメントとは?従業員満足度などとの違い
従業員エンゲージメントとは、企業に対する従業員の理解や信頼のことです。従業員が抱く「どれくらい会社に貢献したいと思っているか」「企業に愛着を持っているか」などの気持ちを表しています。
従業員エンゲージメントは、具体的には次の3要素によって構成されています。
構成する要素 | 概要 |
---|---|
理解度 | 理念やビジョンなどの「企業が目指す方向性を理解しているか」 |
共感度 | 企業の方向性や事業に「どれくらい共感しているか」 |
行動意欲 | 理念や事業に対して「成功のために積極的に行動しようと思えるか」 |
従業員エンゲージメントの大きさによって、生産性や業績、離職率・定着率などへ影響が出ると言われています。
なお、エンゲージメント(engagement)は、婚約・契約・誓約・約束といった意味を持つ英単語です。従業員エンゲージメントは、企業と従業員のつながりを示す造語として使われています。
従業員満足度との違い
従業員満足度と従業員エンゲージメントの違いは、働きやすさ・働きがいのどちらに重きを置いて調査をしているかになります。
従業員満足度とは、企業への居心地のよさです。「給与に満足しているか」「休日や残業時間は適切か」「福利厚生はしっかりしているか」といった、従業員が企業に対して働きやすいかどうかの指標になります。
従業員満足度が高いと、離職率や定着率に好影響が出ます。しかし一方で、「企業に貢献したいと思うか」は別です。生産性や貢献意欲の向上との相関性は低いとされています。
モチベーションとの違い
モチベーション(Motivation)は、動機を表す英単語です。従業員エンゲージメントとの違いは、従業員のやる気の矛先がどこを向いているかになります。
モチベーションは、「働けて楽しい」「この仕事が好き」「上司から評価してもらえる」といった、あくまで個人で完結する気持ちです。企業への愛着や貢献意欲とは別ベクトルの感情であり、ときに利己的な働き方・企業方針とは異なる考え方になる可能性があります。
なぜ従業員エンゲージメントが注目されつつあるのか
人事領域において、従業員満足度だけでなく従業員エンゲージメントが重要視されています。なぜ従業員エンゲージメントが注目されつつあるのか、考えられる理由をみていきましょう。
人的資本の重要性が高まっているから
現在、企業の間で「人材にかかる費用はコストではなく投資である」という、人的資本の重要性が高まっています。理由は次のとおりです。
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従業員エンゲージメントの重要性は世界中で認識されており、世界では国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本に関する情報開示ガイドライン「ISO30414」、日本では「人的資本可視化指針」などが公表されています。
採用現場や労働環境が変化しつつあるから
採用現場や労働環境の変化により、企業と個人の関係性が変化しつつある点も、従業員エンゲージメントへの注目度に関係しています。
例えば、現在はメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へシフトしていたり、終身雇用制度が崩壊しつつあったりなどの要因で、以前より人材の流動化が活発化してきました。
従業員エンゲージメントが低いと、いくら優秀な人材でも退職・転職によって流出するリスクが高まっています。
また近年はリモートワークの浸透によって、社内外での非対面でのコミュニケーションが増えたことも影響しています。
上司や同僚との顔合わせ機会が減ることで、「自分は企業に所属する意味があるのか」「本当に評価をしてくれているのか」といった不安が発生し、既存社員の従業員エンゲージメントが低下する可能性が出ているのです。
従業員エンゲージメントを高める5つメリットとは
企業が従業員エンゲージメントを高める具体的なメリットは、主に次の5つです。
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企業の業績が向上する
従業員エンゲージメントの向上によって従業員1人ひとりの貢献度が上がることで、企業業績の向上が見込めます。企業の売上・利益を優先する働き方を期待できるためです。
「従業員エンゲージメントとキャリア充足度(株式会社リンクアンドモチベーション2022年5月)」によると、従業員エンゲージメントが高まることで、営業利益率や労働生産性がプラスになるとの研究結果が出ています。
離職率・定着率を改善できる
企業への愛着心とも言い替えられる従業員エンゲージメントは、高めることで離職率の低下ならび定着率の向上につながります。新卒の早期離職や優秀なベテランの流出を防ぐことは、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
「エンゲージメントと退職率の関係(株式会社リンクアンドモチベーション2019年9月)」や、「平成30年度 産業経済研究委託事業(企業の戦略的人事機能の強化に関する調査)」などの調査結果でも、エンゲージメントの高さと離職率の低さに相関があると公表しています。
顧客満足度が向上する
従業員が自発的に仕事の質を上げることで、提供する商品やサービスも高品質となり、顧客満足度の向上につながります。
その結果、リピーターの増加や好意的な口コミにより、企業業績にもよい影響が出るでしょう。
優秀な人材の確保につながる
従業員エンゲージメントが高い企業は、離職率・定着率がよい傾向にあります。そのため、就職活動中の学生や転職活動中のビジネスパーソンからの印象もよくなります。既存従業員が知り合いを紹介するといった、リファラル採用の強化も期待できるでしょう。
また、エンゲージメントを高める活動・施策自体が企業の魅力になることから、働きがいを求める優秀な人材も集まりやすくなると考えられます。
従業員のモチベーションアップが見込める
従業員エンゲージメントの向上は、従業員個人のモチベーションアップも同時に見込めます。理由は次のとおりです。
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従業員のエンゲージメントを高める方法
アメリカの調査会社ギャラップの調査(2017年)やニッセイ基礎研究所の見解などによると、日本は他の国と比べて従業員エンゲージメントが低い傾向にあると言われています。
考えられる理由は次のとおりです。
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ここからは、従業員エンゲージメントを高める方法を考察します。
現状の従業員エンゲージメントを把握・分析する
従業員エンゲージメントを改善するには、現状の従業員の状態を把握し、「なぜ現状の従業員エンゲージメントは低いのか」を分析する必要があります。数値としては現れにくいため、社内アンケートや面談などを活用して調査しましょう。
一過性の調査で終わるのではなく、長期かつ継続的に分析・改善することが大切です。
企業理念やビジョンを浸透させる
企業理念やビジョンをあらためて社内に浸透させ、自社が何を目指し何を求めているのかを、従業員に周知させましょう。自社企業の目的や目標が曖昧なままだと、従業員の理解・共感などを得られず、行動意欲を促すこともできません。
社内報やミーティング、朝会などでの周知をおすすめします。
正しい人事評価と評価の反映を行う
人事評価が適正に行われない企業では、従業員が持つ企業への信頼も帰属意識が下がり、モチベーションや貢献意欲も削がれてしまいます。
自社が正しく従業員を評価し、給与や昇進などの具体的な形で反映できているか、あらためて確認しましょう。評価制度の整備だけでなく、上司のフィードバック力や伝達体制の見直しも必要です。
また従業員が希望するキャリアプランを実現できるよう、研修制度や資格取得支援を充実させるのも効果的になります。
働きやすい環境を構築する
素晴らしい理念を掲げたり正しく評価されたりする企業であっても、労働環境自体が過酷な場合は、従業員もエンゲージメントも低下します。従業員が働きやすい環境という、労働する上での根本的な部分も改善しましょう。
具体例は次のとおりです。
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従業員エンゲージメントを高め人的資本経営を成功させる
従業員エンゲージメントを高めることは、人材を重要視する人的資本経営において非常に大切になります。エンゲージの高い従業員であれば、常に企業の利益や職場のことを常に考える優秀な人材として、企業価値を高めてくれるはずです。
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